ARoS
- mommemma
- 2016年12月22日
- 読了時間: 4分
きょう。
念願のアロス美術館に行ってきた。
噂のレインボーに足を踏み入れた途端、
その時間が私の人生で忘れられないワンシーンになっていくのを感じた。
2004年に建てられたという、この「アロス・オーフス美術館」。
オーフス中央駅から歩いて10分とも離れてない位置にあり、
その象徴とも言われる「レインボー」の展望台は遠くからでもその存在感を発揮している。
私は美術館へはあまり足を運ばない。
芸術には興味があるけれど、あの硬く冷たく厳かすぎる空間がどうしても肌に合わないからだ。
アロスへは「せっかくオーフスにいるのだから」ということで記念のような気持ちで訪れた。
水曜日の昼下がり。
来館者はいるが、そこまで込み入った感じはない。
「大人ひとり」と告げてチケットを購入すると、案内係のおじさんが英語で説明をしてくれた。
「荷物はコインロッカーに入れて、20クローナ入れて閉めてね。鍵を開けたらコインは返ってくるから」
OK.と言ってリュックをロッカーにしまい、早速館内を歩き始める。
10階だてのヨーロッパでも最大級と言われる館内は、中央の螺旋階段とエレベーターで繋がっている。
ちょうど行き着いた5階あたりから、上に上がって観ていくことにした。
そのあたりの階は企画展エリアのようで、階ごとにテーマが分かれている。
インパクトが強かったのは 6階にある「NO MAN IS IN AN ISLAND」.
インスタレーションを中心とした企画展だ。
過去にアロスで展示された作品を含め、世界中から選び抜かれた作品が21点ほど展示されている。
テーマは「人間の価値について」「権利について」をヨーロッパのムーヴメントの中から表現していく、といった感じだろうか。

大浴場で血が流れるまで自分の汚れをこすり落とそうとするイラン人女性の映像や、馬を生贄にする儀式を収めた映像など、
目を覆ってしまいそうな作品も結構あったのだが、デンマーク人の子供たちは平気で眺めていた。へえ、みたいな感じで。
絵画を見ながら必死に自分の思ったことをおじいちゃんに伝えている子もいて、なんだか心が温かくなった。
もう一つ階を上がると、今度はデンマークを代表する画家のひとり「J.F. Willumsen」の特別展が開催中だった。
Willumsenは彼の名前の付いた美術館もあるくらい、デンマークでは有名な芸術家。
前情報を何もなしに観に行ったけれど、作品もさることながら私はその展示方法に心を奪われてしまった。
作品群によって壁の色が分けられているのだけど、、その色使いと言ったら!
日本だったらこんな自由な展示法許されるだろうか、というくらいの奇抜さに心を鷲掴みにされた。

さらにもう一階上は、デンマークの主要なアート史を辿ることのできる企画展。
「From Abildgaard to Kirkeby」と題されたこの展示は、18世紀から20世紀に至るまでのデンマーク人による作品が展示されている。
私が目を奪われたのは「Naturalism」の作品群。
戦争や新憲法設定の最中にあった19世紀半ばに現れたグループだそうで、
風景が光に当たって輝いている様子などが、まるで本当の陽の光を浴びてるみたいにキラキラしていた。
思わず目を凝らしてしばらくの間d凝視したほど。どんな細工がしてあるんだろう。

アロスに来て発見したのは「美術館を楽しんでいる自分」。
こんなにゆっくり、しかもじっくり美術館を堪能できたことなんて、正直なかった。
順路も細かくは指定されておらず、どこからでもどうぞ、というスタンス。
好きなように自由に歩き回っていると「作品に集中しなければ」という謎の強迫観念からも自由になれる。
街中を歩くように、ゆっくり気ままに散歩する。そんな感じに近いかもしれない。
自由な鑑賞法は、普段気づかない点にも目を向かせる。
「この壁の色使い、おもしろい」「この額縁、変なの」「ここから作品が見渡せるんだ」
作品だけというより、アロスという空間そのものを楽しめるのだ。
最後に、この美術館のシンポルでもあるオラファー・エリアソンによる作品「Your rainbow panorama」に登った。
虹色の半透明のガラスが美術館の屋上をぐるっと円形に囲んでいる。
その中を歩いて、色みがかったガラス越しにオーフスの街を一望できる仕組みだ。
一歩一歩ゆっくり踏みしめながら、頭の中でようやく地理が繋がってきたオーフスの街並みを確認するように眺めてみる。
30歳。
デンマークに来て手芸を学ぶなんて日が、自分の人生にあるなんて思ってもみなかった。
この4か月間、私にとって特別なものであったことは間違いない。
出会えた人と言葉と。
これから私はまた新しい道を切り拓いていくのだと、どこからともなくそんな気持ちが湧いてきた。
ありがとうデンマーク。
たとえ薄暗くて凍えそうなくらい寒いとしても、私はここが好きよ。
そう、思った。
