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Dora

  • 執筆者の写真: mommemma
    mommemma
  • 2016年9月19日
  • 読了時間: 2分

右足を引きずりながら

でもにこやかに

誰にでも「Hi」という彼女を

私ははじめ、先生かと思っていた。

年の頃も50代前半、と言ったところで、

ちょうど母と同じ世代のように見えた。

名前は「ドーラ」といい、彼女もまた生徒であることを、一緒になった授業で初めて気づいた。

元々面倒見のいい性格なのだろう。

授業中でも食事中でも、必ずと言っていい程英語に通訳してくれて、私たち日本人を気遣ってくれる。

そんなドーラおばさんを、私は母のような存在に感じ始めていた。

ある日の昼食時、ふとしたことからドイツの話になった。

どうやらドーラはベルリンが大好きらしく、いつも以上に熱っぽく、いかにベルリンが素晴らしいかを教えてくれた。

「ベルリンはとても小さな町だけど、それぞれの地区が個性を持っていて、そしてそれを誇りに持っているの。

もしあなたがベルリンに行ったとしたら、すぐに自分の居場所を見つけられると思うわ」

そんな風に語った後、

「私にとってベルリンは世界一の場所よ」

と付け加え、にこっと笑った。

後から知ったのだが、彼女は仕事の関係で長い間ベルリンに住んでいたらしい。

しかも聞くところによると、どうやら国の機関で働いているようで、あのベルリンの壁崩壊時もまさに中枢部で関わっていたそうだ。

そうか、と、彼女の博識さと英語力を思い出して納得した。

と同時に、お母さんのように感じていた彼女の存在が、なぜだか少し遠く感じられた。

どうしてそんな風に感じたのだろう。

それはきっと「手芸を学びに来ている」というだけで、どこか家庭的で保守的なイメージを私が勝手に抱いていたからだ。

そう思ったとたん、自分の想像力の偏狭さを恥ずかしく思った。

「ここでの時間は、私の休暇のようなものなの。この期間が終わったら、今度はコペンハーゲンで働くのよ」

そういったドーラのハキハキした口調と、少し良くなったように見える右足を見て、彼女のこれからの生活を思った。

 
 
 

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