Vigdís
- mommemma
- 2016年9月6日
- 読了時間: 2分
物静かで、でもいつも鮮やかな色の服を着ている彼女は、ヴィグディスと言う。
アイスランドから来ていて、私ははじめ分からなかったのだが、デンマーク語は話せないらしい。
いつも日本人の近くに来て、一言二言会話していくのはそうゆうわけか、と後になって気付いた。
デンマーク語コミュニティには入りにくいのだろう。
ある晩、ヒカリちゃんと一緒にリビングで作業していると、彼女がいつものように、静かに隣に座ってきた。
作りかけの刺繍を手に持って、しかもその出来栄えが細やかで素晴らしく、彼女の性格を表しているように見えた。
黙々と作業をしながら、いつの間にか会話が始まる。日本のこと、アイスランドのこと、彼氏のこと。
そういえば、10月に投票があるからコペンハーゲンに行かなきゃならない、と前に彼女が言っていたことを思い出し、聞いてみた。
「Are you going to Copenhagen for voting?」
Yes, と答えると、彼女はアイスランドの現状について話し始めた。
アイスランドの現政党は、高齢者に対しての政策ばかりで、若者に目を向けてくれていない。アイスランドは小さな国で、議員の中には誰かしらの親戚がいたり、近しい人がいることが多いから、悪いことはできない。それなのに、現首相はある島に私財を保管して脱税していた。
だからアイスランドの人々、特に都心部のレイキャビクの人間は、今の政治に対して不満を持っている人が多い。などなど。
普段口数の少ない彼女が、淡々と、途切れることなく語っていく。
私たちは時折、「そうなんだ」「あ、それは日本でも同じ」などど、少ないレパートリーの相槌を駆使して耳を傾けていた。
知っていただろうか。
アイスランドの人口は約30万人で、8つ先祖をたどると皆んな繋がってしまうそうだ。
小さい国を守るために、EU加盟やユーロ導入はの議論は、他の国よりもより慎重に行われるのだろう。
「デンマーク語とアイスランド語は起源が同じだから、話せなくとも理解はできるのよ。全部ではないけど」
とヴィグディスは言い、
そして最後にこう付け加えた。
「アイスランド語は小さな国の、小さな人口の話す言語だけど、でも同時に、だからこそ守らなければとも思うの」
舌を小さく巻いたような可愛らしい発音のアイスランド語と、彼女の優しい語り声がまだ耳に残っている。

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