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Laura

  • 執筆者の写真: mommemma
    mommemma
  • 2016年9月6日
  • 読了時間: 2分

その子は、ふと、やって来た。

赤毛のふんわりとしたロングヘアで、

色は当たり前のように白い。

すっとした長身に、

少し内股気味の歩きかた。

ケロちゃんの弾くピアノの音を聴いて、

夜の薄暗いホールに、

ぽつん、とやって来たのだ。

「I’m just listening…」

と言ったであろう声を、

私が上手く聞き取れないでいたので、

降りてきたのは失敗だったと思ったのだろう。

「Oh..gosh..」

と言いながら、

恥ずかしそうに入り口でモジモジとしてしまった。

「Do you play the piano?」

とケロちゃんが聞くと、

ちょっとだけ、と言ったので、

私たちはぜひ聴かせてと頼んだ。

小さな声でまた何か言いながら、

さっきよりもより恥かしそうにピアノに向かう彼女を見て、少し、ドキドキした。

ピアノの前に座った彼女の佇まいは、

照明のせいもあって、一段と白く見えた。

両手でそっと奏でだした音は、

彼女そのもののように、繊細で、儚くて、消え入りそうで、そして美しかった。

始まりと同じように、

空気のようにそっと演奏を終えると、

ひと呼吸おいて、にこっと微笑んだ。

「What's your name? I’m Misato」

と聞くと

「I’m Laura」

と答えてくれた。

それから少し、日本のことやデンマークのこと、これまでやって来たことなどを話しながら、

彼女の表情がちょっとずつ明るくなっていくのを感じた。

「What’s your dream?」

と質問してみると、

「I want be a costume designer」

と、彼女はきっぱりと答えた。

ここで一年勉強して、コスチュームデザイナーになりたいんだ、と。

難しいことがあってもトライすることが大切で、やってみなければ分からないんだ、と。

私たちに話しながら、まるでそれは彼女自身の決意を再確認しているようでもあった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日、朝食の時間。

学長のヘラがやって来て、みんなにアナウンスをした。

「ラウラは今、気持ちが不安定な状態です。なので、突然彼女に触れたりはしないように、気遣ってあげて下さい」

昨晩のことを思い出した。

繊細で儚くて、そして美しかった彼女のピアノと、

夢を語っていた時の見据えるような目の力を。

 
 
 

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